インネパカレー男、ネパールへ

ネパール探訪、ネパール論考

Day16: 青空、"ごめんな"、英語化

 朝からフェワ湖畔を散歩してみた。今日のポカラは朝から靄がかかっている。珍しく曇っていて、雨が降るかもしれない。

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 空模様に反して私は"青空"という日本食レストランにやってきた。

https://maps.app.goo.gl/gKe4w5nRtrpNutby9

 決してネパール料理に飽きたということではない。ホテルの人から美味しかったという話を聞き、まあ次に美味しい日本料理を食べられるのはいつになるかわからないから多少お金を払ってでも食べておこうと思ったわけである。寝だめみたいなものだ。


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 寿司、うどん、丼物などメニューが豊富。温かいほうじ茶が出され、朝の冷たいシャワーで冷えた身体を温めてくれた。店員さんは皆さんネパールの方々だった。

 親子丼 (650Rs. =約740円)を注文した。

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 祖母に写真を送ったら、「凄っいボリュームやね」と返事が来た。日本人として箸で食べた。


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 あー、なるほどね、と私は思った。親子丼だ。普通に美味しい。お米も日本米かな。ただ日本人の観点からすると、いささかあっさりしていて少し味が薄く感じた。日本の親子丼はこれより甘くて塩っけがある。

 ネパール人の舌に合わせて作られているのかもしれない。ご飯の量もネパール人向けサイズである。鶏肉もネパール産に感じたので、100%日本スタイルとまでは難しいようである。

 蓋し、日本人は塩分を摂りすぎているのだろう。たぶんこの親子丼を毎日食べていれば、ダルバートと同じで慣れていくと思われる。それが本当に健康的な日本食といえるのかもしれない。

 

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 午後に一部ネットで話題のポカラディズニーランドに行ってみたが、人は少なくアトラクションも動いていなかったので、さっさと帰った。そもそもチケットカウンターに誰もいない。

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 午後の軽食はおなじみのベジ食堂にて。勝利の方程式②(Day15参照)。サモサ1個30Rs.。いつ来ても安い。私のげんこつと同じサイズ。油とジャガイモの炭水化物で簡単に小腹を満たせる。

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 その後雨が降り、私はホテルの自室にこもった。友人と電話し、明日ポカラを発つためのバスを調整してもらった。

 勝利の方程式③の激安ダルバートを食べに行こうとしたら、ホテルの人がロティとアルジラを作っていた。「それもらえないですか?」と図々しく尋ねたら、快くいただけた。


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 アルジラはジャガイモのクミン炒め。それをロティで包んで食べる。こういうシンプルな料理が何気に美味い。

 まだお腹に何か入れたい。できれば肉が食べたい。Day12に訪れたローカル食堂が思い浮かんだ。

https://maps.app.goo.gl/4EfWYfJXWCDX1GJ38

 「ナマステ〜」と覗いてみると、ネパリたちで大変混み合っていた。空いてないか。

 「おぉ、こんにちは!」と厨房からご主人が言った。先日のようにたくましく髭を伸ばしている。そうだ、この方は日本語ができるんだった。普通に日本語で話せば理解してくださる。町の真ん中でこういう存在は少し安心する。

 「空いていないですかね...?」と私はUターンしかけながら日本語で言った。「こっち空いてるよ」とご主人は屋内の小さな部屋に案内してくれた。小さなテーブルが一つだけあり、4、5人は食事ができるようになっていた。ギターやヒマラヤの写真集がてらいなく置かれていた。

 「ここ座ってください」私は椅子に座った。ご主人は日本語で自然に続けた。「ごめんな、混んでて」。

 私にはこの"ごめんな"がとてつもなく愛おしく聞こえた。"ごめん"でもなく、"ごめんね"でもなく、"ごめんなさい"でもなく、"ごめんな"。日本に住んでても言われたことがない。なんと優しい謝罪。こんな風に言われたらどんなに狭量な小人物だって許してしまう。

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 "Local Sukuti Restaurant"という店名なので、スクティが名物のようである。私はドライスクティ(200Rs.=約230円)を食べた。干した水牛肉を香辛料で炒めた料理である。クリスピーでカリッとしており、アチャールと一緒なら酒が確かに進むだろう。ちなみにグレイビータイプのスクティもここでは食べられるらしい。

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 「混んでるから、これ」スクティ入りのチョウミンまでサービスしていただけた。ローカルっぽさ全開で普通に美味しかった。「ごめんな」とご主人は再度付け足した。乃木坂46の過去のシングルっぽく言えば『ごめんな Local Sukuti』だな、なんだそれ、と私は一人笑みを浮かべながらホテルへの帰路に着いた。

 

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 ホテルにて何人かのスタッフさんに今日の"青空"(親子丼)の感想を共有した。私がソファーから前のめりになり必死にネパール語を話していると、端正な顔立ちの女の子が「"アウサットマ"だって」と、くすっと笑った。

 「僕また変なネパール語使った?」

 「変じゃないけど、そういう単語よく知ってるなと思って。"アウサットマ"って言われると、私たちも理解するまで少し時間がかかるの。フォーマルで正式な単語なのよ。私たちは"アウサットマ"とは言わずに、"アベレッジ(average)マ"とか"ラグバグラグバグ"って言うわ」

 「そうかぁ。僕のネパール語は"古い"のかもしれない」

 「ニュースとか公の場ではそういう言葉が使われるわ。だけど、だいたいは英単語を使っちゃう。"サブダ"(単語)の代わりに"word"とか」

 ネパリは日常のネパール語の中で英単語を入れていく。例えば、"使う"は"use ガルネ"(useする)と言うし、"一般的に"は"normally"をよく聞く。それぞれ"プラヨーグ ガルネ" "サーマンニャ ルップマ"というネパール語表現があるにもかかわらずだ。

 例えば以下の動画では映画俳優の2人がインタビューを受けているが、所々英単語が拾える。そしてフレーズや文までも英語として挿入されている。

https://m.youtube.com/watch?v=y6EZJk5oQa4&t=2005s&pp=ygULQmlzd2EgbGltYnU%3D

    もう一つわかるのは、英語をどの程度ネパール語に混ぜ込むかは、個人によって異なるということである。この動画内では女性俳優のほうが男性俳優より英語率が高いと感じられる。私の個人的偏見なのかもしれないが、若いネパリ女性のほうがその傾向があるような気がする。彼女たちが全体的に平均よりも英語力が高いのかもしれない。

 外国人からすると、これはありがたいことでもある。中高の英語がある程度わかれば、ネパール語の聴き取りの手助けになる。ネパール語を話す際も、単語が思いつかなかったら英単語を転用すればよい。実際私もそうしている。

 だが違和感もある。英語ネパール語どっちつかずの話し方までいくと、正直私は眉をひそめてしまう。なぜなら、私は"ネパール語"がもっとできるようになりたいからだ。英語は私の直接の学習言語ではないのだ。ひょっとしたらネパリにとって英語を使うことはカッコいいのかもしれないが、私にとっては純粋なネパールがのほうがカッコいい。

 「英単語を使ったら、ご年配の人たちが理解できなくない?」私は続けて尋ねてみた。「うーん、普通に理解してくれるわよ」という回答だった。ただポカラは都市部だから、農村部だとあなたみたいな純粋なネパール語がいいかもしれないとのことだった。

 私はこう危惧しているーーネパール語は100年後には消滅するのではないか。英語化の波に飲み込まれ、ネパリは英語しか話さなくなるのではないか。今は若者や都市部中心の現象でも、世代が変わってくれば正統なネパール語は聞けなくなるのかもしれない。

 あるいはこれはネパールだけの問題でもないのかもしれない。"英語帝国主義"という言葉があるように、世界全体が英語化し、話者が少ない言語ほどいつの間にか消え去っていくのかもしれない。その際、ネパールのユニークな文化はこの世界に踏みとどまることができるのだろうか?

 私自身は今後どうネパール語と付き合っていけばよいのだろう?若者に合わせ使う単語を見直したほうがよいのか?しかし違和感をそのままにはしたくない。このまま外国人として"綺麗な"ネパール語を話そうと努め続けるのも、一つの道である。

 とかいいつつ、ホテルのスタッフさんとの流れでTanguy Dai(Day8参照)へのビデオメッセージを送ることになった際、「マイレ タパイコ ビデオ サバイ ヘレコ チュ。I'm a big fan of you. If you have some time, マライ タパイライ ベトゥナ マン チャ」と、英語・ネパール語ぐちゃぐちゃの話し方をしてしまう自分がいた。