インネパカレー男、ネパールへ

ネパール探訪、ネパール論考

Day34: 下痢の受診、下痢の定義、下痢の処方薬

 朝起きて下痢をしたので、病院受診をすることに決めた。正体のわからないものを体内に抱え続けるほうが、よっぽど気持ち悪い。

 私は東京海上日動海外旅行保険に加入している。LINE通話で問い合わせができる。

 何回かコール音を待った後、男性が電話に出た。声色から40歳くらいの方だろうと予想した。

 「すみません、昨日から下痢になっていて、受診を考えているのですが、今自分が滞在しているあたりに保険を適用できる病院があるか確認したく思いまして.....」

 彼は保険の証券番号、渡航先、本人確認のための生年月日、そして症状などについて質問した。

 「今インネパ様がいらっしゃるのは、ネパールのどこになりますか?」

 「ナラヤンガートです」

 「ダラヤン...ガード?」

 「ナラヤンガートです」

 「すみません、私ネパールの地理に詳しくありませんでして.....そのナラヤンガートというのは、都市ですか?」

 こういう問答になるのは当然だった。私でさえ、ネパールに来るまでナラヤンガートという街があるなんて知らなかったのだ。

 「そうですね、都市です。"バラトプル"という名称もあります」

 電話先の男性はこれで合点したようだった。

 「受診できる病院の情報を今から2時間以内に再度ご連絡致します。病院側にキャッシュレスで対応していただけないか交渉は致しますが、それでも対応不可の場合、インネパ様のほうで一旦医療費をお支払いいただき、帰国後に弊社までご請求いただくことになります。よろしいでしょうか?」

 問題ない、お願いします、と私は言った。電話を切るや否や、トイレに再度駆け込んだ。

 

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 病院の情報はメールで送られてきた。カトマンズやポカラ以外でも見つけ出してくれるものなんだなぁと、感心した。このホテルから2km、英語受診可、24時間体制でER(救急)受診可能な病院だった。今日は土曜日だからERになる。下痢症状に対してはいささか大袈裟に聞こえるが、早期受診が大事だろう。

 メールには病院の場所のリンクが貼られていた。病院が密集しているエリアに位置しているようだった。その通りは"ホスピタルロード"と呼ばれているらしかった。ホスピタルが先にできたのか、ホスピタルロードが先にできたのか、どっちなのだろう?そんなことを気にするよりも、とりあえず向かおう。

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 私はマスクをしてホテルの外に出た。近くに泊まっていたテンプー(トゥクトゥク)のお兄さんに声をかけた。「この病院まで行きたい」と、私はGoogleマップを見せた。彼はその病院について知らないようで、目を細めて周辺地図を確認した。

 「カティ パルチャ?」(いくらかかりますか?)乗車前に運賃を確認しないといけない。

 「デール セエ。ワン フィフティー」(150Rs.)

 「エク セエ フンダイナ?」(100Rs.にならないの?)

 「フンダイナ」(無理)

 いや、この状況でたった50Rs.(約60円)のことで、交渉している場合ではないなと、私は我に返った。もたもたしていると、また下痢に襲撃される。「OK」と、私は後部座席に乗り込んだ。

 

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  10分も経たぬうちに運転手のお兄さんはテンプーを停め、「病院の場所この辺?」と訊いてきた。私はGoogleマップを確認して、「通り過ぎてます」と言った。「ここで大丈夫ですよ」と、私は彼に150Rs.を渡した。

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 "ホスピタルロード"は本当にその名の通りだった。大小様々な病院や薬局が列を連ねていた。これだけ病院があれば、犬に何度噛まれても平気だろう(そんなわけない)。目的地の病院を見つけるまで、通りを行ったり来たりした。

 立っていた女性看護師さんに「診察をお願いしたいのですが」と声をかけた。私は受付に案内され、700Rs.を支払ってチケット(診断ノートみたいなもの)をもらった。帰国後保険料請求のために、レシートを忘れずにもらった。

 警備員のおっちゃんは笑みを浮かべながら、「いつからネパールに来ているの?」「一人で来ているの?」「ネパール語はどこで勉強したの?」と、次々と質問をしてきた。受付のお姉さんも、やたらにこにこしていた。外国人が少ないエリアで日本人が受診に来たことに対して、2人は嬉しく思っているようだった。私の気分も幾分良くなった。ただ一応私、病人なんですけど.....

 土曜日はネパールの公休日なので、医師が常駐しているわけではないようだった。20分くらいして、30代くらいの男性医師が来てくださった。私は診察室に入った。日本のクリニックより、置いてある医療器具は少なく感じた。

 彼は私に、症状の始まり、下痢の内容、下痢の前に食べたもの、などを確認した。私は下痢の数日前に風邪症状があったことも述べた。彼は私の喉、目、心音、脈、血圧、爪、熱を一通り確認した。どこも異常はなかった。

 「医学的には」彼は私の目を見て言った。「一日に3回以上お腹を下すことを"ダイアリーア"(下痢)と言います」

 下痢 | MedPark Hospital

 そうなのか。私は昨日から24時間以内にすでに4回トイレに行っている。ただ今日は2回しかトイレに行っていない。もしその"下痢カウント"が午前0時にリセットされるのであれば、"下痢"には"まだ"該当していない。もう一回必要である。そう考えると、誰もが認める"下痢"になりたいような気もした。(※国や場合によって、"下痢"の定義も異なるとは思われる。)

 「便を今出せますか?」と訊かれ、「出せない」と私は答えた。医師は診察ノートみたいなものに診察結果を英語でメモし、処方薬についても説明した。ここは中途半端な理解ではいけないと思い、私は2回繰り返してもらった。ネパール語をもっと聴き取れるようにならなければならないと、こういう状況で痛感する。私は土曜日に診療してくださったことに礼を述べて診察室を出た。

 

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 病院と隣接している薬局で処方箋通りの3種類の薬を購入した。合計400Rs.だった。日本のような医療保険なし、つまり10割負担だと考えると、診察代も薬代も日本より遥かに安い。領収書の私の名前のつづりが間違っていたので、訂正をお願いした。正しくないと、後々保険会社が文句を言ってくるかもしれない。

 3種類のうちの一つは何だったか忘れたが、その場で2錠飲んだ。日本よりサイズが大きかった。喉に一瞬引っかかり、飲み込みにくかった。残りの2種類の薬についても、薬局のお姉ちゃんとお兄ちゃんによく確認した。「そのカプセル薬は、飲んだ後に胃腸がガストリック(不快な症状を起こす)になるわ」とお姉ちゃんは言った。下痢になっても薬を飲んでも気持ち悪くなるのであれば、私にはもう逃げ場はないじゃないかと、諦観の境地に達するしかなかった。私は徒歩で帰路に着いた。

 昼食を軽く済ませてからホテルに戻り、私は薬をベッドに並べた。

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 右側の薬はカプセルで、下痢に効く薬。朝と晩、食後に飲む。5日分で合計10錠。オーケー。左側の2袋は、いわゆる経口補水液みたいなものである。

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 粉末状で1リットルの水に混ぜて作る。ネパール語が理解できるできないどうこうよりも、説明書きが細かすぎて読めない。

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 経口補水液、あるいはポカリスエットの色合いをイメージしていたため、オレンジ色には若干ひいた。一口飲んでみた。シロップのような甘さがある。経口補水液は体調不良時は美味しく感じると言うが、このオレンジ水は体調に関係なく美味しくない。少なくとも私はそう感じた。点滴のように、少しずつ体内に流し込んでいくしかない。

 

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 昼食後トイレでお腹を下した。これで私も満場一致で下痢罹患者なのだという自信を持つことにした。といいつつ、その自信が不安を拭い去ってくれるわけではなかった。

 いつ下痢の襲撃を受けるかわからないため、ホテルで大人しくするしかなかった。YouTubeでお笑いの動画を観て、ひたすら笑った。

 夕食はホテルのルームサービスを注文するか、とメニューを開いた。だが、どれも香辛料の刺激が強そうなものばかりだった。ビザやソーセージのような油っこいものも避けるべきだろう。下痢時にネパール料理は役に立たないなぁと思った。

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 もういいや、といささか自暴自棄になり、250Rs.でベジダルバートを注文した。ライスの炊き具合が絶妙で、とても美味しかった。生野菜の人参を1枚食べ、あかんあかん、こういうものを食べたらあかんのだ、と我に返り、大根ときゅうりのスライスは残しておいた。