イターリから発車したバスはダランに着いた。Googleマップを見なくても、それがすぐにわかった。バスの窓から"DHARAN CLOCK TOWER"がはっきりと目に映ったからである。
ダランの町のシンボルとして屹立している時計塔。私はバスを降り、早速この時計台に登ることにした。併設の公園も含めての入場料は20ルピー(約20円)だった。
直角に渦を巻いている螺旋階段を下から眺め、私はワクワクした。児童文学の物語のように、この階段の先に繋がっている別の世界を想像した。私は子どものように駆け足で登っていった。
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時計台からダランを見下ろすと、賑やかさがよくわかった。付近には沢山の車やオートリキシャーが停まっており、ミニカーのように見えた。ダランの雰囲気は他の町とは何かが違うような気がする。何だろうか?私は頭の中で間違い探しをするように、他の町の記憶と今見ている町並みを擦り合わせようとしてみた。
その時電話があった。友人の弟さんからだった。今日時間ができたから、家族と一緒に車で案内するよ、という連絡だった。私はもう少し時計台の上にいたいという気持ちを抑え、併設の公園もささっと見て、その弟さんと合流した。
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私たちは丘の中腹まで車で上がっていった。ダランの町を余すことなく見下ろせた。
砂埃のせいであまりクリアではなかったが、ダランは北・東・西に丘がそびえている地形なのだと理解できた。大きな川が流れているが、今は干からびており、雨季になってやっと水が流れるのだと教えてもらった。この辺りは水不足が問題らしい。
私はダランの家々を見つめていた。あぁ、屋根の形だ、と私は思った。屋根が日本のように三角形の斜めになっている。雨雪が滑り落ちる構造だ。カトマンズの家々は私が見る限り、屋根が平らだった。ダランの家々の屋根がなぜこの形状なのか理由を説明してもらったが、すべては理解できなかった。とりあえずこれが間違い探しの一つの答えだった。
もう一つ抱いたぱっと見の違いが、ダランの家々は綺麗だ、ということだった。青い家が多く、手入れが行き届いている印象を受ける。これに関しては、以下のような明確な回答が得られた。
ダランにはイギリスで軍人を務め、今は退役して暮らしている人が多いのである。彼らは溜まりに溜まった富で家を建て、老後は年金で裕福を満喫する。そのため、ダランの家並みは自然と高級住宅街になっているようである。
ダランにはライ族やリンブー族など"キラティ"と呼ばれる民族グループの割合が大きい。イギリスのネパリ軍人のほとんどは、彼らで構成されているとのこと。それを聞くと、この町のネパリは、皆強そうに見えてきた。
ちなみにライ族・リンブー族は豚肉を食べる。日本人からしたら普通だが、ネパールでは珍しい食文化である。私は日本に住むリンブー族の友人(私は"リンブーダイ"と呼んでいる)から、ダランで食べるべきグルメの写真を送ってもらっていた。ポークトゥクパやポークセクワといった、豚肉料理の写真だった。それを食べることが、私がダランに来たかった一つの理由でもある。
リンブーダイからは訪れるべきお寺の情報ももらっていた。私たちはダランのお寺を3つ足早に訪れた。
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その後私たちは"ピクニック"という名の下、車でダランから西の丘へと登っていった。
この若干命がけの険しい道のりは、果たしてピクニックと呼ぶのが適しているのか.....
車を降りると風が涼しかった。私はTシャツの上にジャケットを羽織った。道中で渡った大きな河は、丘からでも大きく見えた。私たちはシートを広げ、ゆで卵やとうもろこしやみかんを食べ、ジュースを飲んだ。
この丘の上まで来た理由は、単にピクニックだからというだけではない。
ここはパラグライディングのスポットなのである。私の10m先で、一人の欧米人男性が飛び立とうとしていた。彼はインストラクターか誰かから、何か説明を受けている。
インストラクターの人は少し離れて、トランシーバーのようなもので話をしていた。欧米人男性は飛び立つ体勢に入った。一人で飛ぶのか?
布の帆の部分がバッと一気に広がった。鷲が大きく翼を広げたかのようだった。それと同時に男性は緩やかな下り坂を駆け出した。
男性の足が地面から離れた。翼が彼を重力から支えていた。男性はそのまま宙に吸い込まれていった。
本当に飛んでいる、と私は思った。風を上手く読んでいるのだろう。まるでカーリングのストーンのように、スーッと空気の上を滑っているかのように見える。
男性の姿はどんどん小さくなっていった。私はその滑らかな軌道をただ目で追っていた。どうやらこれはトレーニングで飛んでいるらしい。
友人の弟さんの6歳の息子くんが、「パラグライディング、僕もやりたい」と言い出した。大人しそうな子だが無理もない。確かに、日本でこれくらいの歳なら、『ドラえもん のび太と 翼の勇者たち』でも観て、大空への憧れを抱く頃である。お父さんから「子どもはできないだろう」と言われても、息子くんはイマイチ納得していないようだった。お父さんは一計を案じ、お母さんに指示を出した。お母さんは息子くんと手を繋いでインストラクターさんのもとに歩いていった。「子どもでもできますか?」とお母さんは尋ねた。インストラクターさんは、「一定の年齢になればできるよ」と言った。息子くんのおじいちゃんが、「その年齢まで待とうよ。その頃にはこのくらい背が高くなっているよ」と彼に微笑みかけた。息子くんは将来に希望を持てたのか、抵抗することなくお父さんのところに帰ってきた。
そのような新聞の家族四コマ漫画のような顛末を目にし、しつけってこういうことなのかもしれない、と私は思った。なんだか、ほっこりした。
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私たちはその後、ダランの西エリアに向かった。農村風景を過ぎた先に食事処があった。林の中にテーブルが置かれ、近くには池があった。たぶん、「ポークを食べたい」という私の要望を配慮してくれたのだろう。
薪をくべた窯で肉が焼かれていた。セクワだ。鶏肉と豚肉がたっぷり並べられている。私の視覚も聴覚も嗅覚も惹きつけてくる。よだれが滝のように流れてきた。焼き加減も注文できるようである。
お皿にやってきたポークセクワを、私は爪楊枝を刺し、ピリ辛ソースのチャトニをつけて口に入れた。香ばしく焼かれた豚肉は、表面はカリッと(噛み切れないくらいカリッとしていた)、中は肉汁でいっぱいだった。
私はチャングというお酒を飲んだ。ネパール版マッコリのようなお酒である。Tanguy Dai(Day8参照)は、チャングを愛してやまない。彼はダランも愛している。それゆえ私もダランに行きたかったのであり、チャングを飲みたかったのである。
チャングはスッキリとした味わいで飲みやすかった。店員のお姉さんが、「このお酒とこのポークセクワが、私たちライ族の食べ物で有名な組み合わせなんですよ」と教えてくださった。
ポークセクワは完了。あとリンブーダイが私に勧めてくれたダラン名物は、ポークトゥクパとアルニムキ。それに私は豚モモも食べたい。
ローカルグルメに心掴まれながら、私は明日もダランに来ることに決めた。